政策・訴え

職場からパワハラをなくすための「提言」

職場からパワハラをなくすための「提言」

2014年9月30日

2014年9月  日本共産党京浜製鉄委員会

 JFE東日本製鉄所京浜地区の職場で、ひどい嫌がらせやいじめなど、パワハラによる深刻な被害が続発しています。

 「何故パワハラが起きるのか? どうすれば職場からパワハラをなくせるのか?」

 7月5日(土)、川崎市教育文化会館において京浜製鉄職場革新懇が「パワハラシンポジウム」を開催しました。

 日本共産党京浜製鉄委員会は、各分野の専門家の報告・意見、会場からの発言に学び、「提言」を作成しました。

 「パワハラのない職場」をつくるために力を合わせましょう。

1、 パワハラとは何か

(1)パワハラの一般的定義

① 同じ職場で働く者に対して

  ② 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に

  ③ 業務の適正な範囲を超えて

  ④ 精神的・肉体的苦痛を与える、又は職場環境を悪化させる行為

(2)パワハラの6つの類型(参考:厚生労働省「あかるい職場応援団」ホームページより)

   類  型

被 害 の 実 例

(1) 暴行・傷害 

    (身体的な攻撃)

・ 足でけられる

・ 胸ぐらを掴む、髪の毛を引っ張る、火のついたタ  バコを投げる

(2) 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言              (精神的な攻撃)

・ みんなの前で大声で叱責。物をなげつけられる

・ 人格を否定されるようなことを言われる。お前が 辞めれば改善効果300万出るなど、会議の場で言 われた

(3) 隔離・仲間外し・無視

     (人間関係からの切り離し)

・ 挨拶をしても無視され、会話をしてくれなくなっ               た

・ 他の人に「私の手伝いするな」といわれた

(4) 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制、仕事の妨害

   (過大な要求)

・ 終業間際に過大な仕事を毎回押しつける

・ 休日出勤しても終わらない業務の強要

(5) 業務上の合理性なく、能力や経験とかけはなれた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと

   (過小な要求)

・ 従業員全員に聞こえるように程度の低い仕事を名 指しで命じられた

・ 営業なのに買い物、倉庫整理などを必要以上に強 要される

(6) 私的なことに過度に立ち入ること       

  (個の侵害)

・ 交際相手の有無について聞かれ、過度に結婚を推 奨された

・ 個人の宗教を、みんなの前で言われ、否定、悪口 を言われた

2、 何故パワハラが起きるのか

(1)パワハラが起きるメカニズム

  ① 利益第一主義のもと、短期的な利益目標、徹底したコスト削減が追求される

    株式市場の活性化が叫ばれ、短期に利ザヤを求める投資家が急増し、そのためにJFEなど企業は、短期に利益をあげることを追求し、高い株価をめざさなければならない状況に追い込まれていきます。

    JFEでは、徹底した利益第一主義・目先の利益追求のもと、仕事量は多いのに人が減らされ、パワハラが起きる土壌がつくられようになります。

  ② その実現のため、目標管理と管理の個別化が強められ、成果主義であおられる

    会社は、組織としての目標をたて、数値の個人目標として押しつけます。例え装置の故障など本人の責任でなくとも、目標達成していないと判断されてしまいます。

    数値による目標管理は、パワハラが起こるメカニズムに密接に関連してきます。

    管理職・役付きをはじめ、みんなが高いハードルの仕事を押しつけられ、そこから無理が生じ、ストレスや強圧的な言動として現れるようになります。

    数値を上げた者は処遇をよくするが、そうでない者は叱責する。つまり、組織全体の問題ではなく個人的な問題にされ、パワハラが起きます。

  ③ ピラミッド型の組織構造のもろさ─部下を追い立てる管理職・役付き自らも追い立てられる

    パワハラの加害者は、リーダーだったり、作業長だったり、班長・工場長だったりします。   

 しかし、そういう人たちも、上から追い立てられているのです。

   ④ 雇用形態の違いが「身分差別」を生み出す。関連下請け企業も追い詰められる

  ◇ 派遣労働者など非正規雇用労働者

    非正規雇用労働者が増え、それが職場のなかで身分関係みたいなものを生みます。

    派遣労働者を一人の人間としてみるのでなくて、「派遣さん」などと呼びはじめると、相手を人格をもたない存在として見てしまう。そういう中で当然パワハラが起きてきます。

  ◇ 関連下請け企業

    生産でも安全でも、何かにつけて「直協一体」が強調され、親会社からの下請け単価の切り下げなどで締め付けられる関連下請け企業では、JFE本体には見られない、深刻なパワハラが起きる土壌がつくられていきます。

(2)会社のパワハラに対する事態認識の不十分さ

   JFEでは、06年にコンプライアンスガイドブックを発行、パワハラ防止を社員に教育し、「相談窓口」も設けています。 

   しかし、実際は、パワハラは放置され、深刻な被害が広がっています。

   会社は、株主総会での質問に対し、「相談事例があったら対処していく。13年の『窓口』で受け付けた相談は、全社で3件だった」というように、被害をまったく把握していません。

   「相談があれば対処する」という会社の態度はまったくの受身であり、パワハラ被害で死に至ることもあるという事態認識がきわめて不十分で、職場の実態に合った予防と対策は取られていません。

   労働契約法第5条で「安全配慮義務」が定められており、パワハラをなくすことは、会社の責任なのです。

3、 どうすれば職場からパワハラをなくせるか

(1)会社の責任と役割は決定的に重要

  ① 会社には安全配慮義務がある

    労働契約法5条─「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ、労働することができるよう必要な配慮をするものとする」

    パワハラが起きたら、先ず「相談窓口」などに相談すること。会社には、被害者を保護する立場で、パワハラを解決する法的な義務と責任があります。

  ② 「パワハラは絶対に許さない」という職場風土をつくることは会社の責任

   ○ 行き過ぎた利益第一主義を改める

   ○ 仕事量に見合った要員配置をし、競争をあおる成果主義賃金制度を是正する

     要員に余裕がなければ、仕事を教え技能継承することが困難になります。

   ○ 下請け単価を大幅にアップして、関連下請け労働者の労働条件を改善し、無理な作業の押しつけはさせない。

   ○ 会社の責任で、管理・監督者への教育を徹底する

     管理職の間では、部下を怒鳴りつけるのは当たり前で、「自分は、かつてもっと厳しいことを受けながら、頑張ってきた。だから今の自分がある。ついてこれない奴はダメなやつ」(厚労省ホームページ)という一方的な思い込み、悪しき風土が根強くあります。そういう思い込みをもった管理職のもとでは、職場のパワハラ被害を深刻に受けとめ、本気でパワハラをなくす職場風土をつくることはできません。

     パワハラは、「どんな事情があるにせよ絶対にやってはいけない」ことを、とりわけ管理・監督者に会社の責任で徹底し、「職場のハラスメントなんかで、ウツに至らしめたり苦しめたりしていいわけがない」という職場風土をつくることです。

   ○ 職場全員対象の研修会を定期的に開催する

   ○ アンケートなどで職場の実態を把握し、予防と対策につとめる

     実際にパワハラが起こったら、被害者の話を徹底的に聞き、被害者を万全に保護するとともに、加害者に対して機敏に処分や降格、配置転換などの措置をとる必要があります。

(2)労働組合の役割の重要性

  ① 労働組合の存在の重要性

    職場では、パワハラの被害者が声を上げられるような状況にはなっていません。   

     パワハラ被害で苦しんでいる組合員にとって、安心して相談できる労働組合の存在は、たいへん重要です。

  ② 労働組合には、パワハラを含めた職場全体の環境を改善させる役割がある

    労働組合が、成果主義賃金制度などの行き過ぎた人事考課や、目標管理をやめさせることが必要です。

     とりわけ労働組合にとって重要なのは、会社に対して、休業やうつ病になった原因を究明させ、それを明らかにして対策を立てるよう求めていくことです。

     職場の人間関係のどこに問題があるのか、パワハラが起こったら、パワハラのキーマンは誰なのかを的確につかみ、さまざまな対策をとってパワハラを解決できるのは会社です。それを会社に認識させることが、労働組合の重要な役割です。

   (3)パワハラは職場全体の問題──発生して  からでなく予防が大事

    パワハラは、被害者・加害者個人の問題ではなく、職場全体の問題としてとらえることが重要です。そうでなければ、いつまでたってもパワハラはなくなりません。

    パワハラが起きるような職場は、いろいろな問題が重なり合い、ストレスとなってそれを丸ごとその人にぶつけてしまう。そういう職場の考え方、風土を改め、問題解決のために職場全体で考えていく環境に改善することが重要です。

    それでも、パワハラが原因でメンタルヘルスになったら、労災の申請をすることが重要です。   そのために労災保険があります。

    しかし、労災認定は非常にハードルが高く、証拠をいかに残すかが大切です。

    先ず、メモをとる。日記をつける。同僚にメールで知らせる。できれば、ICレコーダーで録音する。

    そして、労災申請したら、勇気をもって立ち上がった人に、職場のみんなで「大丈夫だよ」とフォローすることが、職場の大事な役割です。

(4)政治の役割

   ① 日本にはパワハラを規制する法律がなく、法律をつくることが急務

   ◇ 日本共産党の「ブラック企業規制法案」─労働安全衛生法の改正でパワハラを規制する  

 4つの中身

    1、企業がパワハラを防止するために措置を講じなければならないことを定める

    2、どういう措置をとるか、その中身について指針を定める

    3、パワハラがあった企業に対して、助言、指導、勧告することを定める

    4、その勧告に従わなかった企業には、企業名を公表する

      この法案が国会で通れば、日本ではじめてパワハラを規制する法律が実現します。

  ② EUをはじめ国際的なとりくみの到達点から学ぶ

   イ、EUのすすんだとりくみ

    ○ 苦情は遅滞なく調査され処理されるべきである

    ○ 加害者に対して適切な措置がとられ、それは解雇も含む懲戒処分が含まれる

      被害者は援助を受けるとともに、必要に応じ職場復帰への支援を受ける

      (職場のハラスメント及び暴力に関するEU社会対話枠組協約)

    ○ フランスでは、1年の禁固刑、または1万5千ユーロの罰金(労働関係近代化法)

      こういう対応をとる根底には、しっかりとした考え方があります。

    ○ 欧州評議会社会憲章(1961年、1996年改定)

     第3条─安全かつ健康的な労働条件を享受する権利

     第26条─職場における尊厳の権利

    ○ 欧州基本権憲章(2000年)

     第31条─公正及び適正な労働条件

     (1)すべての労働者は自己の健康、安全及び尊厳を尊重する労働条件に対する権利を有する

    職場において人として尊重されなければならないことが明記されています。

   ロ、ビジネスの分野における国際的な人権尊重の新しい流れ 

     国際社会は今日、企業行動が人権におよぼす悪影響を懸念し、「企業は社会の一員である」との認識に立って、ビジネス分野における人権尊重の大きな流れがすすんでいます。

     ILO「多国籍企業および社会政策に関する原則の3者宣言」、OECD「多国籍企業行動指針」国連「保護、尊重および救済:‥ビジネスと人権のための枠組み」、ISO(民間の国際認証機関)26000「社会的責任に関する手引き」などが、相次いで採択されています。

08年、国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権のための枠組み」は、

    ① 人権侵害から救済するための国家の義務

    ② 人権を尊重する企業の責任

    ③ 企業活動によって人権侵害を受けた被害者の救済拡大

  の3つの柱で構成され、とりわけ注目されています。

4、 JFEは、「企業倫理行動指針」に則り、パワハラ根 絶のとりくみの抜本的強化を

  JFEでは、13年度におけるメンタルヘルスで一ヵ月以上治療を要する労働者は全社で100名とされ(株主総会での社長回答)、その解決は一刻の猶予も許されない緊急課題です。

  メンタルヘルス問題の背景に、パワハラが起きる職場の風土があることは明瞭です。

  JFEグループ「企業倫理行動指針」は、

   8.人権の尊重

     社会の人々、従業員を個として尊重し、企業活動において一切の差別を行わない。

   9.働きがいのある職場環境

     従業員にとって魅力に富み、安全で働きがいのある職場を提供する。

10.法令の遵守

      法令を遵守し、公正で自由な競争に心がけ、適正な事業活動を行うとともに、健全な商習慣に則り、誠実に行動する。

    ことを宣言し、「本行動指針に反する事態には、経営トップ自らが解決にあたり再発防止に努める」ことを、強調しています。

   JFEはいま、まさに、この精神に則り、パワハラ根絶につとめる時です。

5、 パワハラ根絶は、労働者の人権尊重にとって不可欠で あり、企業の発展にとっても不可欠な課題

 パワハラは被害者の人格と心身の健康を傷つけ、労働の意欲を低下させ、職場と会社に損害を与え、社会にとっても大きな損失です。

 パワハラ被害者のほとんどが、職場の中心的担い手であり、JFEの将来を背負う青年労働者です。

  「いい仕事がしたい」「社会に役立ちたい」と夢と希望を抱いて就職し、社会人として足を踏み出したばかりの青年労働者が、パワハラで苦しめられたり、退職を余儀なくされるなどということは、断じてあってはなりません。

 JFEは、自らの「企業倫理行動指針」に則り、「従業員にとって魅力に富み、安全で働きがいのある職場を提供」することを求められています。

 JFEが、国連やEUなど国際社会におけるパワハラ規制の到達点から学び、他社に先駆けてパワハラ根絶のとりくみを強め、職場からパワハラをなくすことは、企業としての社会的責任を果たすことはもちろん、企業として成長・発展するためにも不可欠であり、JFEのイメージアップにもつながります。

【2014年9月  日本共産党京浜製鉄委員会】